少しブームは過ぎたが、マインドフルネスが流行した。
Googleの研修などでも取り入れられており、マインドフルネスをテーマにしたビジネス書も数多く出版されている。
今回は『世界のエリートがやっている 最高の休息法』『キラーストレス』の書評として、マインドフルネスについて書こうと思う。
1. マインドフルネスとは?
Wikipediaによると、マインドフルネスは下記のように説明されている。
マインドフルネス(英: mindfulness)は、今現在において起こっている内面的な経験および外的な経験に注意を向ける心理的な過程である。瞑想およびその他の訓練を通じて開発することができる。マインドフルネスの語義として、今この瞬間の自分の体験に注意を向けて、現実をあるがままに受け入れることであるとか、特別な形で、意図的に、評価や判断とは無縁に、注意を払うことであるといった説明がなされることもある。
お世辞にも分かりやすい説明とは言えないが、マインドフルネスを理解する上で重要となるキーワードがこの説明には含まれている。
それは『いま、ここ』という言葉だ。
例えば、自分が「ぼーっとしている」と思っている瞬間、あなたは本当に「ぼーっとしている」だろうか?思い返してみると、
- 明日やらないといけないこと
- 今日失敗したこと
- 数ヶ月前に上司から怒られたこと
- 来週のプレゼンがうまくいくか
- 次の土日の過ごし方
- 将来どうなるのか
- 昔付き合っていた恋人のこと…
などなど様々な雑念が頭に浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返しているのではないだろうか。
そしてその雑念の多くは、将来の不安であったり、過去の後悔であったりする。
マインドフルネスは、このように過去から未来をさまよう意識・心を、『いま、ここ』に集中できるようにする過程のことを言う。
2.なぜ『いまここ』に集中する状態を目指すのか
ここでひとつ、疑問に思うのが「なぜ『いま、ここ』に集中できるような状態を目指すのか?」という点だ。これを説明するためには、心が過去や未来を迷走してしまっているときの脳の動きについて理解する必要がある。
まず、過去や未来にあれこれ考えを巡らせてしまう状態を『マインド・ワンダリング(心の迷走)』と呼ぶ。
そして、2010年に実施された、ハーバード大学の心理学者マシュー・キリングスワースらが行った大規模調査によると、人がマインドワンダリングの状態にある時間は、生活時間の実に47%(起きている時間の約半分!)にも及ぶという結果になった。
参考:キラーストレス―心と体をどう守るか (NHK出版新書 503)
これだけでも現代人がいかに、今現在に集中できていないかということが分かるだろう。
ただ、近年の研究では、マインワンダリングの状態が継続すると、単純に集中力が欠如している状態が続くだけではなく、どんどん脳が疲労していくことが分かってきた。
その理由は、マインドワンダリングの際の脳活動にある。
人がマインドワンダリングの状態にあるとき、脳の一部の領域が活発に活動する。この領域が『デフォルトモードネットワーク』だ。このデフォルトモードネットワークのエネルギー使用量は、なんと脳の全エネルギー消費のうち60〜80%を占めると言われている。
▼黄色〜オレンジ色の領域がデフォルトモードネットワークだ。
つまり、マインドワンダリングの状態が継続すると、デフォルトモードネットワークの過剰活動を引き起こしてしまい、脳がどんどん疲れていく。
この結果現れる「疲労感」は身体的な疲れではないので、温泉に入ったりして体を休めても解消されないわけだ。
そこで『いま、ここ』に注意を向ける活動(マインドフルネス)を行うことで、マインドワンダリングを回避し、ストレス物質の分泌やデフォルトモードの過剰な活動を抑制する。それによって、脳を休ませてストレスを軽減し、疲労やストレスを感じにくくすることができるようになる。
これがマインドフルネスの基本的な考え方だ。
3. マインドフルネスの効果
マインドフルネスで得られる効果としては、次のようなものが期待されている。
- 集中力の向上…1つのことに意識を向け続けることができるようになる。
- 感情調整力の向上…ストレスなどの刺激に対して、感情的な反応をしなくなる
- 自己認識への変化…自己へのとらわれの減少、自己コントロールの向上
- 免疫機能の改善…ウイルス感染などに対する耐性、風邪をひきづらい
マインドフルネスは、燃え尽き症候群や、うつ病などにも効果が見られたという。報告された様々な研究成果は下記書籍にてわかりやすく解説されている。
ちなみにマインドフルネスの起源は原始仏教にある。それが、西洋に持ち込まれ、発展していく過程でもともと備わっていた宗教性は排除されていき、実用面に比重が置かれていった。近年、科学的な実証実験を元に効果が裏付けられていっている。
そしてマインドフルネスは現在、多くの企業で取り入れられている。グーグル、シスコ、フェイスブック、パタゴニアなど世界を代表する企業で実践されている点にも注目したい。
また、現世界ランク1位のテニスプレイヤーのノバク・ジョコビッチや、アップル創業者のスティーブ・ジョブズも瞑想の実践者として有名だ。
4. マインドフルネスを実践しよう
最後に、マインドフルネスの実践方法について簡単に書いていこうと思う。
マインドフルネスの過程には3つの経験段階があると言われている。これについては、先に紹介した書籍から引用しよう。
マインドフルネスには3つの経験段階があると言われておる。初期はいまここに注意を向けることに躍起になっている段階。中期はこころがさまよったことに気づき、いまここへと注意を向け直せる段階。<<中略>>そして最終段階が、努力せずともつねに心がいまここにある状態じゃ。
実際にマインドフルネスをやってみると分かるのだが、『いま、ここ』に意識を向け続けるというのはけっこう難しい。雑念がつぎつぎに湧いてくるのだ。しかし、これはいまここに注意を向けようと躍起になっている第一段階。継続していくことで、第二段階、第三段階へと進歩していくことができる。あせらずに継続していくことが大事だ。
ただひとつ、注意をしておきたい点は、現在、うつ病などの治療を受けている方は、自分だけの判断で始めず、医師に相談してからにすること。
処方されている薬を自分の判断で中止し、マインドフルネスに注力するなどはもってのほかだ。
それでは最後にマインドフルネスの実践方法のひとつ、マインドフルネス呼吸法について書いていく。
マインドフルネス呼吸法のやり方
マインドフルネスの実践方法としては、
- 呼吸法
- ラベリング
- 瞑想
など様々なものがあるが、ここではマインドフルネス呼吸法のやり方について書こう。やり方は下記手順の通りだ。
1.背筋を伸ばして力を抜いて座る
まずは背筋を伸ばして力を抜いて椅子に座ろう。目は開いていても良いが、個人的には閉じたほうがやりやすいと思う。
2.呼吸に注意を向け、呼吸をあるがままに感じる
次に呼吸に注意を向け、呼吸をあるがままに感じる。呼吸によって、胸が膨らんだりしぼんだりする感覚に注意(気づき)を向けると良い。
3.湧いてくる雑念や感情にとらわれない
マインドフルネス呼吸法をやっている最中も、もちろん雑念は浮かんでくる。ただ、雑念が浮かんでくることに対して、自分を責めずにゆっくりと呼吸に意識を戻そう。「雑念が浮かんだ」という事実に気づくことが大切だ。
実際にやってみると、頭や心がスッキリするような不思議な感覚を得られると思う。1日、5分でも10分でも良いのでぜひ毎日続けてみよう。そして、過去の失敗や未来の不安に振り回されないストレスに強い脳を手に入れて頂ければと思う。
5. 推薦図書
マインドフルネスについて勉強する上でおすすめしたいのがこの本。
なぜこの本をおすすめしたいかというと、
- 物語調で書かれていて思わず引き込まれてしまう
- マインドフルネスについて科学的な成果を元にして解説してくれる
- しかも平易な言葉で書かれていて分かりやすい
という3点が挙げられる。
マインドフルネスについて色々と本は出ているが、せっかくマインドフルネスが宗教性を排除して科学的な裏付けを元に進歩している方法論にも関わらず、やたらと仏教の考え方を引用して『雰囲気』で語っているような印象を受ける本が多い。
それに比べて、この本は科学的な研究成果を元にマインドフルネスの効果や考え方を解説してくれるので、納得が行きやすい。
本記事で紹介しきれなかった
- マインドフルネスとゾーン(フロー)との関係
- マインドフルネス瞑想以外のマインドフルネス実践方法
などの話も多く盛り込まれている。
マインドフルネスに興味がある方の入門書として、ぜひおすすめめさせて頂きたい。